院長コラム2

2014-05-04

 スタンダードプリコーション(標準予防策)は医院に関わるすべての人々に分け隔て無く一律に高水準の感染予防策を行う対策です.当院ではこのスタンダードプリコーションに忠実に則り感染予防対策を行っている歯科医院です.

 

 先日,ある患者さんから聞いたお話ですが,「以前,通院していた歯科医院である日急にもう来ないでくれ」と言われたそうです.理由はどうやらC型肝炎に感染していたからのようでした.「それ以来数年間は歯科医院にかかれなくなり歯がどんどん悪くなっちゃって」ということでした.なんという偏見で,嘆かわしいことでしょうか. おそらく,その歯科医院は問診票で感染症であることを自己申告した患者さんだけを対象にする感染予防対策を行っている可能性が高いと思われます.その方のカルテには赤字か何かで感染症であることが明確に分かるよう印付けがしてあるはずです.スタンダードプリコーションではそのような印付けを行う必要が全くありません.感染症であるかの情報は他の全身疾患と同様に扱えばいいことです.私はこのような感染予防策をスタンダードプリコーションと比較して“理不尽予防策”と呼んでいます.なぜならば患者さんが中心ではなく医院の都合や古くからの慣習だけで行っている科学的根拠が全くない対策と言わざるを得ないからです.

この理不尽予防策で問題なのは,

①感染症であることを自覚していない方は必ずいます.

感染症であることを自己申告しない方も必ずいます(ある調べでは5割弱だそうです),

③ウインドウピリオドの存在(感染していても検査で陰性となる期間)があります.

感染症検査をしても漏れてしまいます(最近手術をして感染症検査をしたけどすべて陰性だったなどは実は不確かなのです).

④未知新興感染症の存在(解明されていない感染症が存在している可能性があります)

以上の理由から.不十分(穴だらけの対策)であることが各種ガイドラインで注意喚起されています.つまり感染症なしとされた患者さんの中に感染症の人がいる可能性が極めて高いということです.要するに誰が感染症であるかを病院や診療所レベルで完全に特定するのは不可能であるということなのです.

 そんな不確かな情報しか得られないのだったら「漏れがあっては危険なので全員,公平に高い水準で感染対策を行いましょう」というのがスタンダードプリコーションの考えなのです.スタンダードプリコーションに則っていない感染予防策を行うと悲しいことに正直に感染症であることを自己申告した方が差別的な扱いを受け,一番の問題は感染の危険性が高くなってしまう点です.安全は常に高い危機管理意識の上に成り立っていなければ意味がありません.車で言えば一生のうちエアバックやシートベルトなどの御世話にならない人の方が多いでしょう.だからといってそれらが不要でしょうか?どんなに安全性を高めても完全な安全なんてないのです.だからヒトは未来永劫,高い安全性を追求し続け,その結果,安全性を確保しようとするのではないでしょうか?
医療関連感染予防対策(院内感染予防)は,スタンダードプリコーション(標準予防策)に則って行われていなければ高い安全性はとてもじゃありませんが確保はできないのです.
 誤解してほしくないのはスタンダードプリコーションに則っていなければ即感染するという話ではなく,感染予防の安全性の低い,いいかえれば感染の危険性が高い感染予防策を行っているということになります.医療関係者でない限り,なかなか本質は伝わりにくいと思いますが,
誰だって病気を治しにいって,病気をもらいたい人なんて絶対にいませんからね.だからこそ,少しでも多くの方にスタンダードプリコーションはとっても重要であることを知っていただきたいのです.われわれ医療関係者や行政がしっかりしなければいけないのは言うまでもありませんが,患者さんの医療安全(特に感染管理)に対しての意識が高まれば高まるほどわれわれ医療関係者側も刺激を受け,もっともっと安全性は高まるはずです.難しいことは分からないと背を向けないで,本質を知るということは自分を守る唯一の方法なのかもしれません.院内の感染予防策に限らず,何でも疑問をお持ちの方は当院に受診したときにどんどん聞いてほしいのです.時間の許す限り喜んでお答えいたします.

 

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