5月, 2014年

院長コラム3

2014-05-25

消毒と滅菌について

 あの新聞報道の一件より,気になる人も少なからずいらっしゃると思いますので院長コラムに載せることとしました.ご参考までに 少し専門的かもしれません. 

 滅菌とは消毒よりも高いレベルの処理で,限りなく無菌に近いレベルの状態にすることです.蒸気による滅菌がもっとも安全で確実といわれています.もう少し詳しくいえばSLAに達することですが,ここでは割愛させていただきます.
一方,消毒とは病原性のある微生物を殺伐すること.大きく分けて物理的消毒と化学的消毒があり,化学的消毒法(薬による消毒法)は種々の理由(温度,時間,濃度などを厳密に管理することが必須なので容易に性質が劣化してしまうため)により不安定であり,十分に行き届いた換気やガスマスクの装着なしでは人体への悪影響が相当懸念されます.

物理的消毒の中ではウォッシャーディスインフェクター による熱水消毒(煮沸消毒とは全く違います)が安全で確実な消毒法といわれています.その他,紫外線による消毒法がありますが(よくスリッパなどで用いられている???),紫外線が直にあたっているところ以外は無効なのです.対象物が透明であったり,宙に浮かして上下左右の四方向から当てられれば,,,うん...?ですが信頼性は低いと思います.
現在では,熱に耐えられる器具は蒸気による滅菌(オートクレーブ)が最も推奨されています.化学的滅菌剤などといわれているグルタールアルデヒドに代表される猛毒な消毒薬がありますがあくまでも条件が整えばでの話ですし,上述した理由より,オートクレーブで行う滅菌
とは比較するのは非常に???なレベルであるといえます.

 そもそも消毒という用語自体が,誤訳であると思っています.なぜならば,猛毒を使用し感染(汚染)を除去する行為であるのに消毒とはおかしいですよね.英語圏では,消毒は生体消毒(antisepsis)と非生体(環境)消毒(disinfection)とに大きく分かれます.でも日本では消毒と言えば生体に使うものから機械(器具)に使うものもまでひっくるめて消毒といっちゃってます.この生体消毒と非生体(環境)消毒では消毒薬の毒性が著しく異なります.その他,食品関係等で主に用いられる殺菌,除菌,抗菌などの用語があり紛らわしくもあります. 

 生体消毒は英語でantisepsis,直訳すれば抗敗血症となり抗菌薬のようになってしまい,本来の意味とかなりニュアンスが違っています.実際,生体消毒は健康に害を及ぼさないレベルで微生物を殺伐することをいいますが,生体消毒薬も現在では,あまり使われない方向になってきており,消毒よりも洗浄を優先した方がいいとされてきています.ただし,それは特別な環境を除いての話です.免疫の働かない根管内などの歯の内部は洗浄だけでは不十分に決まってますし,そのような場合は生体に悪影響を及ぼさない程度の消毒薬を上手に使うしかありません.抜歯後などに生理食塩水で抜歯窩を軽く洗浄してると「先生,消毒しないのですか」って極稀にいわれることがありますが,生理食塩水で洗った方がよっぽど効果的で安全であるのを分かってほしいものです.消毒薬は生体に優しくないのですよ.体にいいなんて夢にも思わないことが賢明です.

 非生体(環境)消毒は英語でdisinfectionですが,直訳すれば「感染を取り除く」で,これも本来の意味からすると原語自体も間違いである可能性があることがわかります.環境や器具は感染はしませんから,感染というのはあくまでも生体内で起こる現象のことですから, antibacterial とか  decontaminationといった方が正しいはずです.ただし,antibacterialは抗菌薬(抗生剤)とかぶりそうだし,decontaminationは放射能汚染の意味で主に使用されています.話が逸れてきそうなので,元に戻します.非生体(環境)消毒では消毒効果が高ければ高いほど毒性が高く猛毒となり,環境汚染を招き,その結果,生体に悪影響を及ぼすということです.化学的消毒法や物理的消毒法特に紫外線などは効果が疑問で,用語自体も誤解を生むものとなってしまっているのです.

 結局のところ何が言いたいかというと,非生体(機械や器具)に用いる化学的消毒薬はほんのわずかな一部の例を除いていいところが何もないものであるということ.オートクレーブ(高圧滅菌器)を主に用いて日々の機械や器具の処理にあたることがベストであるということの2点です.やむを得ず耐熱性でないものや物理的オートクレーブに入れられないもの,当院で言えば印象体の処理や環境表面やノンクリティカルアイテム表面にのみ化学的消毒薬(0.1〜0.5%程度の次亜塩素酸)を使うことが安全だと考えています.ただし,環境表面やノンクリティカルアイテム表面は血液(その他汚物)汚れがある場合にのみ行えば十分であると各種ガイドラインでも述べられています.

補足:アルコール消毒は,浸漬(容器にアルコールを満たして対象物を浸ける)であれば非常に有効な消毒薬であると言えますが,アルコール綿での器具や環境表面の清拭はアルコール自体揮発性が極めて高く消毒効果をほとんど望めないことが分かっています.ちなみに誤解があったら困るので述べさせていただきますが,日常的に御世話になっている手指衛生に用いる擦式アルコール製剤を否定するつもりは一切ございません.あくまでもアルコール綿での清拭のお話です.

 患者に使用した器具を洗浄せずにいきなり消毒薬に漬ける行為いわゆる一次消毒(予備消毒)は効果が不十分であるばかりか病原性微生物を生きたまま封じ込めてしまうといわれており,先ず,バイオバーデンを減らすためにも洗浄をしっかり行い,その後に消毒薬に浸漬することが重要です.

参考:診療器具の感染管理カテゴリー(E.H.Spaulding):繰り返し使用する機械および器具を処理するための分類です.これを知らないと支離滅裂な処理法を行うか,何でも滅菌すればよい的な考えになります.大事なことは前向きに考えること 例えば「この器具は,粘膜を切るときに使う予定だからクリティカル」なのです. いけないのは「血液がいっぱい付いたからクリティカル」とか「感染症患者に使用したからクリティカル」などと過去にさかのぼって処理法を決めてはいけないこと.また,教科書やガイドラインによく載っていて「こりゃーだめだ」と思うことに,行う治療によって同じ器具でも分類が異なる場合も多く,また,手術で用いるのであればセット組にするのが普通なので何が該当する器具かをいちいち記入してあるのはナンセンスです.誤解を生む一番の原因にもなっています(例えば「クリティカル→メス,スケーラー」 「セミクリティカル→ミラー,ピンセット」などとするのは百害あって一利無し).これらは,それぞれの施設で事情も考え方も違うので,熟考して各施設の感染マニュアルを作成する時点で自分たち自らが器具を分類し記入するのが一番いいのです.ちなみに「歯を削る機械」はセミクリティカルに相当しますから,滅菌処理が必要というわけです.アルコール綿で拭く行為は,セミクリティカルでは無効(無意味)であり,本来の消毒(浸漬法)とは全く異なる行為です.

感染管理カテゴリー(E.H.Spaulding)

クリティカル:軟組織,歯,骨を貫いて体の深部に入り込む器具  

処理法:オートクレーブ滅菌 保管法:厳重(滅菌バッグ,滅菌コンテナ)

セミクリティカル:健康な粘膜,傷のある皮膚に触れる器具  

処理法:耐熱性器具はオートクレーブ滅菌(やむを得ず高水準消毒ただし,浸漬法)保管法:一日のうち頻回に使うものは滅菌カスト,それ以外は滅菌バッグが無難

ノンクリティカル:健康な皮膚のみに触れる器具 

処理法:無処理,必要に応じて水ふき,低水準消毒で清拭 保管法:なし

2014.5.18.読売新聞の報道を受けて

2014-05-20

先日,新聞報道(2014年5月18日付けの読売新聞 朝刊一面)の記事によると,国立感染症研究所などの研究チームが3125の歯科医院にアンケート調査を依頼し,891の歯科医院から回答を得た.回答によれば約7割の歯科医院が患者に使用後のハンピース(紙面ではドリルの柄)を滅菌せず,アルコールで拭くなどして,次の患者に使用する不適切な処理をしていることが分かりました.その理由は,人手や費用ががかかるからとされています.

当院では開業当初より,ダックユニバーサル(シロナ社)という洗浄滅菌器を使用し,
すべての患者さんに対して1回毎必ずハンドピースは滅菌を行っていますので,ご安心下さい.

なお,滅菌のためハンドピースは取り外し可能部分と可能でない部分に分かれています.
当院では取り外し可能部分は,専用の滅菌器(Sサイクルオートクレーブ)に取り付け,洗浄,油注,滅菌まで行っております.また,脱気機構を有している滅菌器(Bサイクルオートクレーブ)でも滅菌を行い,用途に応じて使い分けています.
なお,滅菌器は脱気機構(空気を抜き真空状態にする機構)を有していない機種であるとハンドピースのような管腔構造(中に穴が開いている構造)である場合滅菌できません.
滅菌器も特殊な器機が必要となり,費用がかかるというわけです.
当院ではより感染防止対策の質を上げるために,取り外しができない部分は,バリア保護といってビニールチューブで被います.ビニールチューブは1回使い切りで使用後破棄します.
ここまで厳重に行っている歯科医院は,かなりの少数派と思われますが,非常に重要です.
当院の感染予防対策はスタンダードプリコーション*に則っておりますのでどうぞご安心下さい.

*スタンダードプリコーション:最高水準の感染予防対策 
患者さんの感染症の有無を完全に把握することは不可能なので,すべての患者さんに対して
一律で高レベルな感染予防対策.
スタンダードプリコーションは人手はもちろんのこと費用もかなりかかります.
しかし,スタンダードプリコーションを行っていなければ院内感染のリスクは高まるばかりです.

我々の医院にとってはハンドピースを患者さん毎に滅菌するということは至極当たり前のことで開業当初から行っています.その他にも大切なことはたくさんありますが,最重要なことはスタンダードプリコーションに則り感染予防対策を行っているか否かが鍵を握っているのです(院長).
 

院長コラム2

2014-05-04

 スタンダードプリコーション(標準予防策)は医院に関わるすべての人々に分け隔て無く一律に高水準の感染予防策を行う対策です.当院ではこのスタンダードプリコーションに忠実に則り感染予防対策を行っている歯科医院です.

 

 先日,ある患者さんから聞いたお話ですが,「以前,通院していた歯科医院である日急にもう来ないでくれ」と言われたそうです.理由はどうやらC型肝炎に感染していたからのようでした.「それ以来数年間は歯科医院にかかれなくなり歯がどんどん悪くなっちゃって」ということでした.なんという偏見で,嘆かわしいことでしょうか. おそらく,その歯科医院は問診票で感染症であることを自己申告した患者さんだけを対象にする感染予防対策を行っている可能性が高いと思われます.その方のカルテには赤字か何かで感染症であることが明確に分かるよう印付けがしてあるはずです.スタンダードプリコーションではそのような印付けを行う必要が全くありません.感染症であるかの情報は他の全身疾患と同様に扱えばいいことです.私はこのような感染予防策をスタンダードプリコーションと比較して“理不尽予防策”と呼んでいます.なぜならば患者さんが中心ではなく医院の都合や古くからの慣習だけで行っている科学的根拠が全くない対策と言わざるを得ないからです.

この理不尽予防策で問題なのは,

①感染症であることを自覚していない方は必ずいます.

感染症であることを自己申告しない方も必ずいます(ある調べでは5割弱だそうです),

③ウインドウピリオドの存在(感染していても検査で陰性となる期間)があります.

感染症検査をしても漏れてしまいます(最近手術をして感染症検査をしたけどすべて陰性だったなどは実は不確かなのです).

④未知新興感染症の存在(解明されていない感染症が存在している可能性があります)

以上の理由から.不十分(穴だらけの対策)であることが各種ガイドラインで注意喚起されています.つまり感染症なしとされた患者さんの中に感染症の人がいる可能性が極めて高いということです.要するに誰が感染症であるかを病院や診療所レベルで完全に特定するのは不可能であるということなのです.

 そんな不確かな情報しか得られないのだったら「漏れがあっては危険なので全員,公平に高い水準で感染対策を行いましょう」というのがスタンダードプリコーションの考えなのです.スタンダードプリコーションに則っていない感染予防策を行うと悲しいことに正直に感染症であることを自己申告した方が差別的な扱いを受け,一番の問題は感染の危険性が高くなってしまう点です.安全は常に高い危機管理意識の上に成り立っていなければ意味がありません.車で言えば一生のうちエアバックやシートベルトなどの御世話にならない人の方が多いでしょう.だからといってそれらが不要でしょうか?どんなに安全性を高めても完全な安全なんてないのです.だからヒトは未来永劫,高い安全性を追求し続け,その結果,安全性を確保しようとするのではないでしょうか?
医療関連感染予防対策(院内感染予防)は,スタンダードプリコーション(標準予防策)に則って行われていなければ高い安全性はとてもじゃありませんが確保はできないのです.
 誤解してほしくないのはスタンダードプリコーションに則っていなければ即感染するという話ではなく,感染予防の安全性の低い,いいかえれば感染の危険性が高い感染予防策を行っているということになります.医療関係者でない限り,なかなか本質は伝わりにくいと思いますが,
誰だって病気を治しにいって,病気をもらいたい人なんて絶対にいませんからね.だからこそ,少しでも多くの方にスタンダードプリコーションはとっても重要であることを知っていただきたいのです.われわれ医療関係者や行政がしっかりしなければいけないのは言うまでもありませんが,患者さんの医療安全(特に感染管理)に対しての意識が高まれば高まるほどわれわれ医療関係者側も刺激を受け,もっともっと安全性は高まるはずです.難しいことは分からないと背を向けないで,本質を知るということは自分を守る唯一の方法なのかもしれません.院内の感染予防策に限らず,何でも疑問をお持ちの方は当院に受診したときにどんどん聞いてほしいのです.時間の許す限り喜んでお答えいたします.

 

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