顎関節症

顎関節症の3大症状は,①あごの関節や筋肉(咀嚼筋)の痛み,②関節雑音(口を開けたり閉じたりする時に関節部の音(カクカク,ジャリジャリなど)が鳴る場合),③開口障害(口が開きづらい)あるいは顎運動異常などの機能障害を示す病気です.
その病態には表1にお示ししますように咀嚼筋障害、関節包・靱帯障害、関節円板障害、および変形性顎関節症などが含まれており,治療法はその病態により異なるため,病態の分析,把握がとても重要となります.

      表1 顎関節症の病態分類(2013年)             
・咀嚼筋痛障害(Ⅰ型)
・顎関節痛障害(Ⅱ型)
・顎関節円板障害(Ⅲ型)
 a.復位性前方転位(内方,外方,後方などの場合もある)(関節音:クリック,間欠ロック)
 b.非復位性前方転位(開口障害:急性クローズドロック,慢性クローズドロック)
・変形性顎関節症(Ⅳ型)                       
 *重複診断可能

それぞれの病態についてご説明いたします.
1.咀嚼筋障害(Ⅰ型)

触診による筋痛の診査
・局所性疼痛(図1):手指で押した部位のみ痛みを生じる.
・筋筋膜痛(図2):手指で押した部位から痛みがひろがる.
・関連痛を伴う筋筋膜痛(図3):手指で押した部位と離れた部位にも痛みを生じる

このような筋肉の異常は,TCH*,頬杖,長時間にわたる同姿勢でのスマホやPCの操作,下顎突出癖などの日常的に行っている動作や姿勢などが原因となります.開口時や食事時に咀嚼筋部の鈍痛を両側性に生じることが多いです.症状は慢性化することが多いのが特徴です.

*TCH: Tooth Contactinf Habit(歯列接触癖);食事中,会話などを除いて,上下の歯が歯列のどこかで接触している状態.食いしばり以外にも歯が軽く接触している場合でも筋の活動量は増加し,筋の緊張状態が続くと筋疲労や筋痛が出現することがあります.食事や会話などの機能時以外は,上下の唇は閉じている状態でも上下の歯は接触することはありません.この状態であれば筋肉は弛緩し,安静を保っていられます.通常,1日の上下の歯の接触時間は平均17.5分と言われています.TCH有す方の場合は,この何倍もの時間上下の歯が接触しますから筋肉や顎関節に悪影響を与えるのは容易に想像がつくと思います.
2.顎関節痛障害(Ⅱ型)
転倒や殴打による下顎の強打,歯の食いしばり,TCHなどにより顎関節に過度の外力が加わると顎関節周囲(靱帯,滑膜,関節包など)に外傷性変化や炎症が起こることがあります.開口時や食事時に激しい痛みを生じます.ほとんどが急性で1〜2週間程度で痛みは改善する場合が多いです.
3.顎関節円板障害(Ⅲ型)
正常な開口運動
正常の顎関節の動きと関節円板の位置を図4〜6にお示しします.下顎頭と下顎窩の間に関節円板があります(図4).開口時に,下顎は回転に続いて滑走運動といって前方に移動します.この移動時には,関節円板もその動きに連動して前方に移動します.

a.復位性関節円板前方転位:関節円板は関節に負荷がかかるとクッションとして働きます.この関節円板は,過剰な負荷(急性,慢性)がかかると前方にずれてしまう場合があります(図7).開口時にずれた関節円板は開口の邪魔となりますが,関節円板を乗り越えて,開口時に一旦正常な位置に戻る場合を復位性関節円板前方転位といいます(図8).多くは相反性クリックといって,関節円板の復位時と閉口位に前方へ再度ずれるときに雑音(クリック)を生じます(図8,10).その際,例えば,左側復位性関節円板前方転位の開口経路は,一旦左に偏位しながら開口しますが,最大開口時には正中に戻って開きます(図11).症状としては,雑音(クリック音),開閉口時の疼痛などがあります.

b.非復位性関節円板前方転位:開口時に前方転位した関節円板が復位しなくなると開口障害を伴うようになります(図12).この状態を非復位性関節円板前方転位(クローズドロック)といいます.これには急性と慢性(陳旧性)とに分類されます.その際,例えば,左側非復位性関節円板前方転位の場合は開口経路は,左に偏位したままとなります(図11).多くは開口障害(制限)を伴います.症状としては,開口時の疼痛,開口制限などがあります.

 

 

 


 

4. 変形性顎関節症(Ⅳ型)
顎関節円板障害や顎関節痛障害が起こると,細胞や組織の代謝機能が低下する退行性病変が生じることがあります.これにより骨に形態異常が生じた状態を変形性顎関節症といいます.ほとんどが関節円板障害に引き続いて起こるといわれています.

・顎関節症の原因
かみ合わせだけが原因と思われている患者さんが非常に多いのですが,現在では複数の原因があることが分かってきています.
①解剖学的要因:顎関節や咀嚼筋がもともと構造的に弱い傾向がある場合
②外傷要因:打撲,転倒などが顎関節周囲に障害を及ぼしたことがある場合
③咬合要因:不良なかみ合わせや歯の欠損など
④精神的要因:抑うつ,不安や緊張が強い状態が長期に及ぶ場合など
⑤行動要因:習癖(TCH,悪い姿勢など),就寝時の歯ぎしり,スポーツ,楽器演奏など
以上の①〜⑤が積み重なり起こると考えられています.少しの要因で発症する人もいますが, すべての要因が積み重ねっても発症しない人もおり,個人差が大きく関与していると考えられています.

・顎関節症の治療
治療は,その病態や病気の進行度に応じて下記に述べる治療法を組み合わせて行います.
①原因療法:顎関節の発症に起因する習癖や日常生活を是正することを目標としており,生活指導を中心とした治療法です.
②薬物療法:顎関節障害のように比較的炎症が強い痛みには,消炎鎮痛剤(NSAIDs)が適応となる場合が多いです.筋筋膜痛に関しては鎮痛剤(アセトアミノフェン)や筋肉を軟らかくする薬(筋弛緩薬)が適応となる場合もあります.また,難治性の筋筋膜痛に対しては抗不安薬や抗うつ剤が適応となることもあります.
③理学療法:筋筋膜痛に対しては筋ストレッチ法や筋マッサージ法などがあります.主に咀嚼筋や首の後ろや横,肩に分布する筋に対して適応されます.復位性関節円板前方転位に対しては円板整位運動療法,非復位性関節円板前方転位に対しては,急性の場合は徒手的円板整位術,慢性(陳旧性)の場合は下顎頭可動化訓練が適応となります.
④スプリント療法:マウスピースを用いて行う方法です.スタビライゼーションタイプ,単純挙上タイプ,前方整位タイプ,ピヴォットタイプなどがあります.
⑤外科療法:主に非復位性関節円板前方転位に対して行われます.
a.パンピングマニピュレーション
 主に理学療法やスプリント療法でも改善しない急性の非復位性関節円板前方転位の場合に,顎関節(主に上関節腔)に針を1本穿刺し,局所麻酔薬や生理食塩水を注入することによって,水圧を利用し円板の整復を試みる方法で,同時に気炎物質なども洗い流す効果があります.
b.顎関節洗浄療法(図14)
理学療法でも改善しない顎関節痛や開口障害のある慢性(陳旧性)の非復位性関節円板前方転位の場合に多く行われる治療法です.顎関節(主に上関節腔)に針を2本穿刺し,生理食塩水やリンゲル液を環流させ顎関節腔内を効率よく洗浄する方法です.痛みが軽減する効果が高く,下顎頭可動化訓練を併用することにより,開口障害の改善にも非常に効果が高い方法です.

c.顎関節鏡視下剥離授動術
上関節腔内の線維癒着を切離する方法で,同時に,骨棘などを明視下で整形することも可能であり,洗浄療法で改善が認められない場合に適応されてきましたが,線維癒着は顎関節痛を伴う開口障害の直接的な原因ではないとの報告もあり,近年はあまり施行されなくなった方法です.
d.顎関節開放手術
主に関節円板の広範囲な穿孔や断裂した場合に,円板切除術を目的に行われる方法です.上述の外科療法が奏功せず,強い顎関節痛を伴う重度の開口障害にまれに適応されます.また,開放手術ですので,骨棘に起因した顎関節痛を有す場合には,関節鏡に比較して挿入する器具の方向の制約が激減しますので,より確実に整形することが可能です.
⑥咬合療法:非可逆的治療となりますので,顎関節症の諸症状が改善し,機能的にも安定した時期の最終段階に考慮されるべき治療法です.これには大きく分けて咬合調整と補綴学的治療,矯正治療の3つに分類されます.咬合調整は,まっすぐに両側の臼歯部で咬んだときに,ある部分だけ強く当たる場合や横に動かしたときにスムースな動きを邪魔する歯がある場合に適応されます.
補綴学的治療や矯正治療は,例外はありますが,主に咬合調整のみではコントロール(歯の欠損や著しい咬合不正など)できない場合に適応されます.

 

 

 

 

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